アニメをっち

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アニメ「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」 10話の再考察

 全話視聴済み。完全ネタバレありで再度考察していきます。

 10話はイドの中のイドで鳴瓢が本堂町と出会い家族と別れる、そして砂漠のイドで穴井戸が井戸嵐を起こす回です。

 

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©IDDU/id:INVADED Society

 

 

 飛鳥井木記が「溶ける」とはどういう状態か

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©IDDU/id:INVADED Society

「私、暴力の世界の中で自分がなくなってきているのが分かるんです。このままだと、私というタガが外れそうで」

「タガ、が外れる……?」

「私が、私じゃなくなるんです。それは肉体的な死じゃなくて、私というものが溶けて世界に溢れ出て、混ざり合ってしまうような。そんな私のなくなり方なんです」

 

 10話序盤の台詞です。これを聞いてユングの「集合的無意識」を思い出した方も多いと思うんですが(自分もそうでした)、残念ながら関係ありませんでしたね。

 

 最終話の序盤で飛鳥井木記の周囲の人間が無作為に連続殺人鬼のイドに投入されていました。あれは飛鳥井木記の無意識が勝手に溢れ出した結果でしょう。

 巨大なミヅハノメとなった飛鳥井木記は遠くの見知らぬ殺人鬼のイドも取り込んでいました。それは周囲の人間だけでなく、もっと広い範囲に拡散できるようになっていた証拠でしょう。

 作中では何らかの装置で制御されているようでしたが。

 

「それだけじゃありません。世界に溶け込む事で、きっと私は世界のあり方の方を捻じ曲げてしまう」

 

 この台詞は飛鳥井木記のもの、前のやり取りの続きです。

 「世界のあり方を捻じ曲げる」、それは言葉通りとんでもない状態のようです。飛鳥井木記の思念が届く範囲の人間はイドに呑まれ、まともに生きれるとは思えない。しかもその範囲はどんどん膨らんで行く……。

 世紀末以上のパワーです。

 

夢は終わらない

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©IDDU/id:INVADED Society

「そもそも生きている限り夢は終わらないんです。私の中から殺人鬼が完全に排除されたとしても、私の記憶が形を少しずつ変えて、繰り返し繰り返し、私を殺すんです」

 

 「夢は終わらない」、どこかで聞いたような言葉ですが皮肉な使われ方をしていますね。夢、つまり悪夢は終わらないという意味でしょう。

 この時点で飛鳥井木記を苦しめていた五人の連続殺人鬼は鳴瓢によって排除済み(顔削ぎ・舌抜き・股裂き・腕捥ぎ・対マン)、それでも彼らは飛鳥井木記の夢の中に居座ったようです。 

 これはイドの中のイドでの発言ですが、イド主の発言なので信憑性は高いと考えられます。

 

 

 こんな状態の飛鳥井木記を鳴瓢や井戸端のメンバーは本当に救う事が出来るのか……? 考えるだけで気が遠くなりますね。

 

「溶ける」のは決まっていた?

 飛鳥井木記のこの性質は生まれつきのようです(小学校から不登校)。

 なら飛鳥井木記は元々そういう生き物だったのかもしれない。いずれか自分が薄まって世界に溶け出すという宿命を持って産まれて来たんじゃないか、と思ったんですが違うようです。

 

「 私、暴力の世界の中で自分がなくなってきているのが分かるんです。」

 

 この記事の最初の台詞を再度引用。

 連続殺人鬼に夢の中で何度も殺される、この夢の中で死ぬ経験を繰り返した事で飛鳥井木記の性質が悪い方向に進んで行ったのではないかと思います。

 

 しかし人の中には一定の割合で殺人を犯す人間が現れます。彼らを避けて生きる事は可能だったか? 局長のような人間にたまたま出会ったからこんな事態になってしまったのか、それとも別の誰かに見つかっても結局は同じような事になっていたのか……?

 これについては想像するしかありません。まぁ連続殺人鬼なんて存在にそうそう出会うとは思えませんが。でも、夢の中の出来事ですからねぇ。

 

局長と飛鳥井木記

 この二人がどんな関係だったのか? 考察というより推測するしかない部分です。

 

出会った時期は?

 飛鳥井木記の略歴は以前の記事に書いたのでそちらから引用。

woti-samurai.hatenablog.com

1995年福井県西暁町で三女として生まれる。

小学一年の時から不登校、高校で退学処分を受ける。

両親に引き取りを拒否されて、施設「さねんころ」へ。

18歳で自殺未遂で入院。

施設を出て絵描きに。

三回の自殺未遂で入退院を繰り返す。

21歳でタイマンに拉致されるが、百貴によって助け出され入院。

2017年3月21日に失踪、看護士集団昏睡事件。

以下、不明。

 

 最初の自殺未遂が18歳の時、恐らくそれまでにジョン・ウォーカーが夢の中に現れていたとは思いますが、裏付けは一つもありません。

 

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©IDDU/id:INVADED Society

「もう随分長い間色んな人に夢の中で殺されてますから」

 

 唯一あるとすれば9話のこの台詞ぐらいでしょうか。しかしこの「随分長い間」というのも10年前からなのか1年ほどなのかは分かりません。強烈な体験なので三ヶ月も続けば随分と長く感じてしまうというのもあるでしょう。

 

 

 ただ一つ、距離の観点があります。

 巨大なミヅハノメとなった飛鳥井木記は海外の殺人鬼の思念を受け取っていたようです。つまりそれ以前は国内のみだった、という事になります。

 なら前はもっと狭かった可能性がありますね。

 

 飛鳥井木記の産まれは福井県、全寮制の高校は三重県。施設「さねんころ」はどこなのか分かりませんが、その後の住所は東京都内(京王線仙川駅から徒歩10分のアパート)のようです。

 施設の「さねんころ」が都内ならその辺りが怪しく思えますが、当時の局長がどこに住んでいたかは分からないし、どうやって飛鳥井木記の夢の中に入ったのかも分からない。

 そもそも当時から飛鳥井木記の夢が日本中から侵入可能であった可能性もあるので、この説もそこまでの信憑性はありません。

 

四度の自殺と家賃

 これは妄想になりますが、少し気になったので書いておきます。

 

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©IDDU/id:INVADED Society

「毎月の家賃および管理費についての詳細は不明だが、調べた範囲では、生活保護費あるいは両親の仕送りで支払われていると推察される。」

 

 これ以外にも気になっているのは飛鳥井木記の四度の自殺未遂です。正直、四回もやってよく生きてるなと思います。

 

 飛鳥井木記に死なれると困るのは誰か? 局長です。彼は飛鳥井木記を夢の中で殺害する事で長年抑え込んでいたであろう欲求を発散しています(あの歳まで我慢できたのも不思議ですが、歳を取って目覚めるというのもあるんでしょうか?)。

 更に飛鳥井木記の変化を知ってからは巨大なミヅハノメを作るという正義を振りかざしています。

 

 なので、「もしかしたら」ですが、局長が飛鳥井木記をサポートしていた可能性がある。影ながら家賃を払い、自殺未遂の際には救急車を呼んだり周囲の人間に何らかの形でけしかけたりと、飛鳥井木記が死なないように動いていた可能性があります。

 あくまで可能性です、書いた本人も信じていません。

 

涙で画面が見れなかった人用に

 10話では視聴者の涙腺を壊す一連のシーンがありました。挿入歌や声優さんの演技も素晴らしく、そのせいで映像がしっかり観れなかった方も多いと思います(というか何度観てもアカン、ここは)。

 なのでその周辺の考察です。

 

手を伸ばす

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©IDDU/id:INVADED Society

 

 画像は本堂町と出会い電話で家族に別れを告げるシーンの途中、「本当の俺は……、現実に居るんだ」辺りのもの。

 

 記憶力のいい方なら憶えているでしょうか。

 

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©IDDU/id:INVADED Society

 

 1話の冒頭、バラバラのイドに潜った主人公が最初にした行動です(この後、手がバラバラになる)。記憶のないイドの中でつい行ってしまうというのは無意識に刻まれているからでしょう。

 

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©IDDU/id:INVADED Society

 

 確か2話にも似たシーンがあったと思ったら、完全に同じ絵でした。使い回しというと悪い言い方になりますが。

 

 ちなみにこの2話のシーンは、カエルちゃんについて考えているシーンです。

 無意識に手を伸ばす=失った家族の事を思う=カエルちゃん、というつながりが見えてきますね。家族とカエルちゃんを重ねて見ているのはこのブログでは既に何度か触れました。

 

罪悪感の一つの原因

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©IDDU/id:INVADED Society

 

 回想シーン内にこういうひとコマもありました。奥さんが鳴瓢の胸を叩いています。「どうして(娘を)助けてくれなかったの!?」という声が聞こえてきそうです。

 この事がその後も鳴瓢を延々と苦しめる事になるのですが、奥さんを責める気にもなりません。助けられなかったのは奥さんも同じで、鳴瓢を責めるのは自分を責めるのと同じ気持ちだからでしょう。

 実際この後に奥さんは──。

 

 憎むべきはその原因であり、この作品では局長という事になるのかもしれませんが、どうにもならない因果や不条理というのも人の生き死にには付き物です。

  こういった問題にどう向き合うか? これは宗教を失った現代人にとって大きな問題なのかもしれません。

 

10話の役割

 鳴瓢の過去が全て明らかになりました、過去が明らかになる事で物語的にはその先に進むしかない(進まない物語もありますが)。ここから先は鳴瓢も未来に向かって進む事になります。

 しかし過去が明らかになる方法がただの回想ではなくループのような構造を持っているのも独特ですね。面白いと同時に残酷です、ドラマチックという言葉で片付けていいのやら……?

 

 ですが10話は鳴瓢の過去編だけで終わりではありません。3話からの布石である井戸嵐、それが巻き起こる事で次回への引きになっていました。

 さぁ、ここから鳴瓢たちはどうなるのか!? といっても既に知ってるんですけどね。

 

 あ、蛇足かもしれませんが、鳴瓢が「大丈夫」な理由は警察官としての使命や正義感があったからだと解釈しています。それも決して真っ直ぐではない正義感、それがジョン・ウォーカーに利用されたというのも皮肉ですが。

 

 

 という辺りで10話の再考察は終了。個人的に残っている大きな謎は二個か三個ほど。あらかた片付いた感はありますが、とりあえず最終話まで完走予定です。

 

 

 

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